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採用の内製化と外注化|損益分岐点の考え方

最終更新 2026-08-28

「紹介手数料だけで年間◯百万円。この金額があれば採用担当を雇えるのでは」——採用費が積み上がってきた会社で、必ず出てくる問いです。内製化すれば外部への支払いは減る。しかし、採用担当の人件費と立ち上げ期間、そして「本当に内製で採れるのか」というリスクが伴う。逆に外注は、費用は高いが確実性があり、固定費を抱えない。この判断は、感覚や流行(「これからは内製の時代」)で決めるべきものではなく、自社の採用量・職種・体制から損益分岐を計算できる、構造のある意思決定です。この記事では、内製と外注のコスト構造を分解し、分岐点の考え方と、現実的な移行の進め方を解説します。

前提の整理:内製化とは何を内製することか

「採用の内製化」という言葉は、実は曖昧です。採用は複数の機能の束であり、内製・外注の判断は機能ごとに行うべきものです。

機能外注の形内製の形
母集団形成(出会いの創出)人材紹介、求人広告代理店、スカウト代行、RPOダイレクトリクルーティング、リファラル、採用広報、直接応募
選考の運営RPO(日程調整・一次対応の代行)、適性検査自社の採用担当による運営、面接官体制
見極めと口説き(外注しにくい中核機能)面接官の育成、経営の関与
入社後の立ち上げ研修の外部委託オンボーディングの設計・運用

この分解から、2つの原則が見えてきます。第一に、見極めと口説きは、本質的に外注できない。候補者が入りたいのは自社であり、紹介会社ではありません。どれだけ外注しても、面接の質と口説きの力は自社に残る宿題です。第二に、内製化の議論の実体は、ほとんどの場合「母集団形成をどこまで自前でやるか」の議論です。紹介・広告への支払いの大半はここに対するものだからです。

したがって本記事の以降は、主に母集団形成の内製・外注の損益分岐を扱います。あわせて、「内製化」は外注ゼロを意味しないことも押さえてください。現実の最適解は、ほぼ常に内製と外注の組み合わせ(ポートフォリオ)であり、問いは「どちらか」ではなく「どの比率か」です。

コスト構造の違い:変動費の外注、固定費+資産の内製

内製と外注の本質的な違いは、コストの構造にあります。

外注(紹介・広告)は変動費です。採用1件ごとに費用が発生し、採らなければ発生しない。市場価格(紹介なら年収の35%前後)で「出会い」を都度購入する形であり、初期投資も立ち上げ期間も不要。少量・不定期・急ぎの採用に対して、圧倒的に合理的な構造です。

内製は固定費+資産形成です。採用担当の人件費、スカウト媒体・採用管理システムの利用料、採用サイトへの投資——これらは採用数に関わらず発生します。その代わり、採用1件あたりの追加費用は小さく、数を採るほど1件あたりコストが下がる。さらに重要なのは、内製の活動が資産(採用ノウハウ、候補者との関係、発信の蓄積、リファラルの文化)として積み上がることです。外注は使ったら消える費用、内製は残る投資——ストック型とフロー型の区別が、ここでも判断の軸になります。

この構造から、分岐の直感が導けます。採用数が少ないうちは外注が安く、一定量を超えると内製が安くなる。加えて、採用が単発でなく毎年続く見通しなら、内製の資産形成の価値が上乗せされます。次章で、この直感を計算に落とします。

RPO(採用業務の代行)は、この中間の選択肢です。母集団形成や選考運営の実務を外部チームに委託する形で、「固定的な体制を、雇用より柔軟に持つ」ことができます。採用量の波が大きい会社や、内製立ち上げの過渡期の支えとして有効ですが、ノウハウが社内に残りにくい構造のため、後述の「内製化の段階」の中で位置づけを設計すべき手段です。

損益分岐の計算:自社の数字で試算する

損益分岐の計算は、シンプルな比較で始められます。

外注コスト(年間)= 年間採用数 × 外注単価。例えば年5名を紹介中心で採り、平均年収500万円・手数料35%なら、5名×175万円=875万円。

内製コスト(年間)= 体制の固定費 + 内製チャネルの費用 + 残る外注費。例えば、採用担当1名(人件費600万円)+スカウト媒体・採用管理システム等(150万円)+それでも埋まらない分の紹介利用(1〜2名分・約300万円)=約1,050万円。

この例では、年5名の採用なら外注の方が安い計算になります。しかし、採用数が年10名に増えると、外注は1,750万円に膨らむ一方、内製は固定費が変わらず(担当の負荷次第で+α)、逆転します。自社の損益分岐は、おおむね「体制固定費 ÷ 外注単価」で概算できる——固定費750万円・外注単価175万円なら、年4〜5名の採用が分岐の目安です。

ただし、この単純計算には3つの補正が要ります。

  1. 立ち上げ期間の補正 — 内製チャネル(ダイレクト・広報・リファラル)が機能するまで半年〜1年かかる。初年度は内製費用と外注費用が二重にかかる移行コストを見込む
  2. 成功確度の補正 — 内製で本当に採れるかは、職種の市場と担当者の力量に依存する。特に採用担当自体の採用・育成に失敗すると、固定費だけが残る。この不確実性が内製の最大のリスク
  3. 資産価値の補正 — 内製の活動は、翌年以降のコストを下げる資産(プール・発信・ノウハウ)を作る。単年の比較では内製が不利でも、3年の累計では逆転することが多い

つまり、損益分岐は「今年の採用数」だけでなく、「今後3年の採用の見通し」で判断すべきものです。毎年コンスタントに採用が続く見通しなら内製化の合理性は高く、今年だけの急な増員なら外注が正解です。

職種と状況による調整:一律の答えはない

損益分岐は、職種と自社の状況によって大きく動きます。判断を調整する主な要素を挙げます。

職種の市場構造。転職者がスカウト媒体に多く登録している職種(若手ビジネス職・エンジニア等)は、ダイレクトリクルーティングの内製が機能しやすい領域です。一方、母数が極端に少ない専門職・管理職は、紹介会社のネットワークに頼る合理性が高く、内製化の優先度は下がります。採用競合の分析と同様、職種ごとに市場が違う以上、内製・外注の最適比率も職種ごとに違います。

自社の知名度と発信力。ダイレクトリクルーティングの返信率は、企業の知名度と発信の蓄積に左右されます。無名の会社が今日スカウトを始めても、すぐには機能しません。内製化の前提として、事実に基づく採用広報の整備が必要であり、これも立ち上げ期間の一部です。

リファラルの潜在力。社員の定着と満足度が高い会社は、リファラル(制度設計の詳細)という最も安価な内製チャネルの潜在力を持っています。逆に、職場への不満が強い状態でリファラル制度を作っても機能しません。内製化の順序は、組織の状態にも規定されます。

採用量の波。毎年の採用数が大きく変動する事業(受注次第・出店次第)は、固定費化のリスクが高く、外注・RPOの柔軟性に価値があります。安定した採用が続く事業は、内製の固定費が回収しやすい。自社の採用需要の「ベースライン(毎年必ずある分)」を内製で、「変動分」を外注でという設計が、この観点からの基本形です。

移行の実務:段階的な内製化のロードマップ

内製化を進める判断をした場合の、現実的な段階を示します。一気の切り替えは、採用の穴と失敗リスクを最大化します。

第1段階:足元の整備(0〜3ヶ月)。外注を続けながら、内製の土台を作ります。採用サイト・求人票の原稿の質を上げる、選考プロセスと歩留まりデータを整備する、チャネル別の実質単価を計測する。この段階は費用がほぼかからず、外注の効率も上がる(紹介会社への情報提供の質が上がり、決定率が改善する)ため、内製化しない場合でも価値があります。

第2段階:1チャネルの内製実験(3〜12ヶ月)。最も勝ち目のある1チャネルを選んで小さく始めます。多くの会社での現実的な選択肢は、リファラル制度の整備か、1職種に絞ったダイレクトリクルーティングです。専任を雇う前に、既存メンバー(人事+現場の協力者)の兼務で試し、返信率・面談率・採用数を測る。この実験が、「自社は内製で採れるのか」という最大の不確実性への、最も安価な答えになります。

第3段階:体制への投資(1年目以降)。実験で手応えが得られたら、専任担当の配置や媒体契約の拡大に投資します。このときの採用担当の要件は、「作業者」ではなく「チャネルを立ち上げられる人」です。スカウトの文面設計、現場を巻き込む力、データを見て改善する力——この人選の成否が内製化の成否そのものであり、妥協すべきではありません。

第4段階:ポートフォリオの継続調整。内製チャネルの成長に応じて、外注への依存を段階的に下げます。ただしゼロにはしません。専門職・急な欠員・市場の変化への保険として、紹介会社との関係は細くても維持する。毎年、チャネル別の実質単価と充足の実績を見て、比率を調整し続ける——内製化とは、一度の切り替えではなく、この調整サイクルが回っている状態を指します。

内製化の本当の成果物は、費用の削減そのものよりも、採用の主導権です。市場の相場に全面的に依存する体質から、自社の資産と力で採れる体質へ。採用単価が上がり続ける市場で、この主導権は年々価値を増していきます。

よくある質問

採用担当を1人雇うか、RPOに頼むか迷っています

判断軸は「継続性」と「残したいもの」です。今後3年以上、毎年採用が続く見通しで、採用力を自社の資産にしたいなら、自社雇用が本筋です。採用量の波が大きい、または内製化の過渡期で立ち上げを速めたいなら、RPOの柔軟性が活きます。第三の選択肢として、RPOと自社担当の併用(実務をRPO、設計と口説きを自社)で始め、ノウハウを吸収しながら段階的に自社比率を上げる形も実務的です。RPO利用時は「ノウハウの引き継ぎ」を契約時の要件に含めることを勧めます。

ダイレクトリクルーティングを始めましたが、返信率が低くて心が折れそうです

初期の低返信率は正常です。確認すべきは3点。(1)文面が「誰にでも送れる定型文」になっていないか——候補者の経歴の具体的な箇所に触れた個別文面は、返信率が明確に変わります。(2)送る相手の選定が広すぎないか——要件に合う少数に丁寧に送る方が、大量配信より効率的です。(3)受け皿が整っているか——スカウト経由の候補者は志望動機がまだ薄いため、いきなり選考ではなくカジュアル面談から入る設計が必要です。3ヶ月続けて改善が見えない場合は、媒体と対象職種の相性を疑い、媒体の変更も検討してください。

内製化を進めたら、紹介会社との関係が悪くなりませんか?

伝え方と使い方次第です。取引を黙って減らすのではなく、「内製チャネルを育てており、紹介には◯◯の職種(専門職・急募)を中心にお願いしたい」と方針を共有してください。紹介会社にとっても、決定率の高い依頼に絞られる方が効率的であり、誠実な関係は保てます。避けるべきは、紹介経由で知った候補者に直接接触するような信義に反する行為です。これは契約違反であるだけでなく、業界内での評判を失い、いざという時に紹介の支援を受けられない会社になります。

経営に内製化を提案したら「人事の焼け太りでは」と言われました

疑念はデータ設計で解消できます。提案に、(1)現状の外注費の実績、(2)内製体制のコストと損益分岐の試算、(3)段階計画(実験→検証→投資)と各段階の判断基準、(4)成果の測定方法(チャネル別実質単価の推移)を含めてください。特に「小さな実験から始め、数字で検証してから投資する」という段階設計は、固定費化への警戒に対する最も誠実な答えです。[予算承認の組み立て](/column/saiyo-yosan-shonin/)の型がそのまま使えます。

内製化に成功した会社は、何が違ったのでしょうか?

観察される共通項は4つです。第一に、経営が関与している——スカウトへの経営者の登場、面談への同席など、内製チャネルの武器として経営を使っています。第二に、現場を巻き込んでいる——スカウトの対象選定や面談に現場エースが参加し、人事だけで完結させていません。第三に、データで改善している——返信率・面談率・決定率を毎月見て、文面と対象を調整し続けています。第四に、時間軸が現実的——半年での成果を求めず、1〜2年かけてチャネルを育てる覚悟で始めています。逆に言えば、ツールだけ契約して人事に丸投げした内製化は、ほぼ確実に失敗しています。

この記事のまとめ

  • 内製化の判断は機能別に行う。実体は母集団形成の内製比率の議論であり、見極めと口説きは元々外注できない
  • 外注は変動費、内製は固定費+資産形成。分岐の目安は「体制固定費÷外注単価」で概算できる
  • 判断は今年でなく今後3年の採用見通しで。立ち上げ期間・成功確度・資産価値の3つの補正を忘れない
  • 職種の市場・知名度・組織の状態・採用量の波で最適比率は変わる。ベースラインを内製、変動分を外注が基本形
  • 移行は、足元整備→1チャネルの小さな実験→体制投資→継続調整の段階で。一気の切り替えは穴とリスクを生む
  • 内製化の本当の成果物は費用削減より採用の主導権。市場価格への依存から自社資産で採れる体質への転換

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